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ふるびる

最近まで、「ふるびる」は「古美る」と書くものだと思いこんでいました。「古びる」というのは、ただ単に古くなる、というのではなく、美しさを増しながら古くなっていく様を表す言葉、そんなイメージを持っていたのです。

「ふるびた屋根瓦」「ふるびたランドセル」「ふるびた万年筆」…。どうでしょう。「古美る」という書き方がぴったりだと思いませんか? でも辞書を繰ると、残念ながら「古美る」という書き方はありませんでした。

言葉の持つ微妙なニュアンスは、個々人の経験、時代背景、気候風土等々の様々な要素によって時々刻々と変化していくものです。「ふるびる」も昔は単に古くなることを意味していたものが、何かのきっかけで「古美る」という書き方がふさわしくなるような変化を遂げたのではないかと想像されます。

「やばい」は、本来、恐れや不安を引き起こす様を表す言葉ですが、最近の若者たちの間では真逆の意味で使われることが多くなっています。「この料理の味やばい。」「あの歌手の歌唱力やばい。」というふうに、「すばらしい」とか「すごく魅力的」というような意味で使われることが多くなっているのです。

似たような言葉に「不器用」があります。辞書で見てみますと、「身体的な運動技術、特に手の技術が欠如していること」とあり、本来は否定的なイメージを持つ言葉でした。それが、名優、故高倉健さんが映画やコマーシャルの中でよく使うせりふ「不器用ですから」で、そのイメージが大きく変わりました。

8月28日付の朝日新聞天声人語に次のような記事が載っていました。

~高倉健さんの渋いせりふによって、「不器用」という言葉は株を上げた。本来は否定的な意味だが、その中にあった好意的なニュアンスが膨らんだ。いまや「器用」を超える褒め言葉かもしれない。~

物事を器用に処理することは苦手だけれど、常に誠実で飾り気のない正直者、そんな様を形容するのにぴったりの言葉となりつつあります。

若い頃は古いものに美しさを感じるということはあまりありませんでした。私は海南市で生まれ育ちましたが、あの古くさくて、ゴチャゴチャした町並みが大嫌いでした。大阪や神戸などにあるような新しい洒落た町並みにあこがれ、なんで自分の町はこんななんだろうといつも思っていたものです。でも、年齢を重ねるにつれて、最近は古びたもの、歴史を重ねたものにすごく愛着を感じるようになってきました。年月を経て色が変化したいぶし瓦、苔むした石畳、使い込んで黒光りしている革財布、等々。人間とて同様。古くなって朽ちていくような生き方だけはしたくありません。常にチャレンジ精神を持ち、年齢を重ねることによってさらに輝きを増しながら「古美て」いく、そんな生き方を志したいものです。

平成27年9月25日

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最終更新日:2016510